喜びをあなたに(小説全部)

「そこに光が差したのです」

「待って。まだ心の準備が……」

ワタシは声を張り上げる。

「光は、大きくなって、彼女を包み込みます」

ナレーションを喋っているのは、仲間の1人。

「ん、準備OKよ」

ワタシが今喋っているのは、アニメのセリフ。

ワタシは声優。

といっても、駆け出しでまだまだだ。

「うまかったよ、西原(さいばら)さん」

監督の元春(もとはる)が言った。

元春はワタシの恋人で、そのことを知っているのは、友人だけだ。

「優(ゆう)、今日、家行くから」

元春が、囁いてきた。

「うん」

アニメの録音は終わり、各々(おのおの)家に帰る。

ワタシは帰る前に食べ物を買いにスーパーに寄った。

元春が来るなら、ワイン買って帰ろうかな。

メニューは得意なパスタ。

小松菜とツナと生姜を和(あ)えよう。

元春と恋人になって、幸せな気分が続いている。

家に帰って、パスタを作っていると、元春が合鍵で入ってきた。

「優、来たよ」

「いらっしゃい」

元春はにこりと微笑むと、ワタシに抱きついてきた。

「んんっ」

キスをして、「好きだよ」と囁く元春に、待ったをかける。

「パスタ伸びちゃうから」

元春は、物足りなさそうな顔をして、テーブルを布巾で拭きにいった。

「次のアニメでは、ヒロインの友達役だよ」

「本当? どんな話?」

話を聞くと、穏やかな日常を描いたお話らしい。

「出番多い?」

「結構多い」

嬉しい。

「どんな性格なの?」

「穏やかで明るいいい子」

「やった~」

思わずガッツポーズ。

パスタを作り終えて、リビングのテーブルまで持っていく。

「アニメーターの鈴木君が結婚するらしいよ」

元春が嬉しそうに笑って言った。

パスタを食べる。

「うまい!」

元春の言葉に喜びを感じる。

「いつも、ありがとう」

元春に言うと、不思議そうな顔をしていた。

「ありがとうは、こっちの言葉だよ。美味しいの作ってくれてありがとう」

元春の言葉に、なんだか泣きそうになった。

「おいしいって言ってくれるのが嬉しくって」

「なんだよ、泣くなよ」

「なんか、感動しちゃったんだもん」

元春は、身体を抱きしめてくれた。

「片付けしなきゃ」

ワタシがそう言うと、元春が動いて、「今日はおれが片付けるから、座ってて」と言った。

「え、本当? ありがとう」

元春は鼻歌交じりにキッチンに向かった。

「あ、仕事入った」

ワタシが呟くと、元春が「何なに?」と聞いてきた。

「仕事、アメリカのドラマの『この素晴らしい思い出とともに』のエミリー役」

ワタシが答えると、元春が、「やったじゃん」と言ってくれた。

にゃーん。

猫のゲンキが鳴いた。

「あ、ゲンキ、お腹空いたかな? 今準備しますからね」

ゲンキにエサを準備して。

「ゲンキって名前ぴったりだと思わない? ゲンキ見てると元気になる」

「うん」

元春は笑うと、キスをしてきた。

元春のキスは、花がほころぶように、優しい。

優しく抱きしめ合うと、夜になった。

「今日はここにいていい?」

元春が寝転びながら聞いてきた。

「うん」

元春は眠るとき静かだから、一緒に寝ても睡眠状態はいい。

何より、幸せな気分になる。

楽しい夢とか嬉しい夢とか見られる。

元春は結婚とか考えてるんだろうか。

できれば結婚したいけど、ワタシから言い出すのは、恥ずかしい。

声優業も、今はうまくいっているけど、先は分からない。

数学のように、正解がある仕事じゃないから、自分の感覚だけが頼りだ。

今は良くても、どんどん若い子が起用されてきて、先を追い越されそうで。

「脚本を読んでくるから、先に寝てて」

元春に言ったら、「ゆっくりで、いいと思うよ」と言われた。

「ゆっくりって?」

「頑張るの。適当にやっていけばいいと思うよ」

「適当にって」

「楽に楽しくやるといいってこと」

「楽に楽しく……」

そうかもしれない。

布団に入り込んだ。

 

「鈴木君、結婚おめでとう」

結婚式は小さいけど、綺麗(きれい)なところを選んだ。

アニメーターの仕事は大変だけど、やりがいを感じてる。

結婚相手はアニメ見ない普通の子。

「由芽(ゆめ)なんか嬉しいな」

「うん」

「由芽、一緒に幸せになっていこうな」

「うん」

「もしかして緊張してる?」

「うん」

カクカクと動く由芽のほっぺをつんと触る。

「何するの、輝夏(きなつ)」

「ほら、緊張ほぐれただろ?」

「あ、本当だ。ありがとう輝夏」

由芽は顔を花が咲くようにほころばせた。

可愛い。

「ねえ、輝夏、アニメーターって、描きたくない絵も描かなきゃいけないんでしょ」

「まあね、でも、人に幸せを与える仕事だからね」

「そうだね」

「まだ俺は動画しか描けないけど、原画が描けるようになって、作画監督になれたらいいと思っているんだ」

「それまでは、私も仕事頑張るよ」

アニメーターの給料高くならないかな。

由芽に頼ってばかりはちょっとね。

原画が描けるようになったら、もう少し高い賃金になるかな。

結婚式はつつがなく終わった。

ハネムーンは、北海道に行くことになった。

海鮮丼を食べて、その美味しさに感動したり、ラベンダー畑を見て美しさに感動したり。

でも、何より好きな人と一緒にいられることが嬉しい。

幸せは夜まで続いて。

由芽がガウンを着てお風呂から出てきた。

そのまま自分達の部屋に戻った。

「ちょっと恥ずかしいね」

「そうだね」

由芽とは、幼馴染だったから、手も出さずにこれまできたけれど。

ガウンを、脱いだ。

 

「優(ゆう)、今日もいい演技だったよ」

声優仲間の時雨(しぐれ)さんが声をかけてくれた。

「本当ですか? やったぁ!」

ワタシは飛び上がりたいくらい喜んだ。

時雨さんはワタシの憧れの声優で、演技力抜群にいいのだ。

その時雨さんに褒めてもらえるなんて、最高だ。

ウキウキしてると声をかけられた。

事務所の秋本さんだ。

「西原さん、エイトのこのは役オーディション受けてみる気ある?」

人気漫画で、ワタシも好きな作品だ。

「でも、このはは英語が」

そう、ワタシは英語が得意じゃない。

「社長はこの際に英語を頑張ってみないかと言ってるわ。それによって、できる役柄も増えるし」

「はい」

「それじゃあ、これから英語塾に通ってもらうわよ」

「はい」

「うちが契約している英語塾がフューチャーってところなの。18時から20時まで。今日から行ってらっしゃい」

地図をスマートウォッチで受け取ると、ワタシは英語塾フューチャーに向かった。

それから毎日英語の勉強。

休憩時間があるから、なんとかやっていけそうだ。

塾が終わって帰ると、元春が来ていた。

「あれ、遅くなるってメッセージ送ったよね」

「だから、料理作ってやろうと思ってね」

「ありがとう~。元春大好き」

「麻婆豆腐だよ」

「大好きよ」

「じゃあ温めてくる」

待っている間、猫のゲンキを可愛がる。

猫じゃらしと戯れるゲンキの姿を見るのは、最高の癒しなのだ。

元春の麻婆豆腐はちょうどいい辛さ(からさ)で、美味しかった。

「おいしいよ、ありがとう」

元春に感謝の言葉を告げると、元春は嬉しそうに笑った。

「英語勉強始めたんだ」

「それはいいね」

「エイトのこのは役を狙っているの」

「エイトか、勝ち取れるといいな」

「うん」

 

英語塾は結構会話を重点的にやるので、発音をその通りに言えるようになるのが難しい。

先生曰く、「聞き取れなくてもいいから発音だけは頑張って」とのこと。

文法もリーディングも必要ない。

スピーキングだけに力を入れる。

だから、結局のところ、発音さえうまくできていればいいってこと。

「I’m looking for something.」

「まぁまぁね、ネイティブには程遠いけど」

「Why do you pray.」

「アールは口をこうして。よく見て」

アールは巻き舌にして口に舌がつかないようにして。

練習するうちにできてきた。

10回に1回くらいから、5回に1回、そして、なんとか毎回できるようになってきた。

でも文章に組み込むと簡単じゃなくて、練習がまだ必要だった。

練習して。

練習して。

だんだん言えるようになってきた。

違う文章も練習して。

うん、大丈夫かな?

まだ発音うまくないのがあるので、それを練習。

 

俺は、由芽とのハネムーンも終わり、日常に帰ってきた。

「ほい、お前、今度から原画担当な」

いきなり上の人に言われて、戸惑ったけれど、やったとガッツポーズ。

原画は大変だけど、俺ならできる。

今まで家で練習してきたんだ。

「うん、鈴木君、ここは、もう少し背景をかっこよく描いて」

「はい」

背景は少し得意じゃない。

丁寧に時間をかけて、かっこよく。

頑張れ、俺。

約1時間後作画担当者の元に持っていくと、OKをもらえた。

やった。

仕事の時間が終わり、家に帰る。

これからは由芽が家で待っていてくれたりするんだな。

由芽も仕事は忙しいだろうけれど、シフトで遅くなる日と早い日があって、今日は早い日だから。

楽しみに家に帰ると、電気がついているのが見えた。

明るい家に帰る喜び。

家に入ると、「お帰りなさい」と由芽が声をかけてくれた。

うう、感動。

体の中に雷が落ちたみたいに感動が貫いた。

「ご飯温めてくるから、待っててね」

「うん」

「料理得意じゃないから、まだこんなのしか作れないけど、頑張るからね」

テーブルに並べられたのはもやしと豚肉の炒め物と味噌汁とご飯と納豆。

「十分十分」

俺はそう言って食べ始めた。

おいしい。

俺が感想を言うと、由芽は嬉しそうに笑った。

 

ワタシが英語をマスターして、オーディションの日。

「大丈夫かな」

何度も発音チェックしていると元春からメッセージが入ってきた。

「大丈夫だ、練習量は他の人と引けを取らないぞ」

オーディションは渡された台本の部分を演じる。

英語のシーンもなんとかこなすと、最終選考まで残った。

そして、満を辞しての最終選考が終わり、結果ーーこのは役を手に入れた!

元春に連絡すると、レストランでお祝いでもしようかと言われた。

レストランは豪華で、気後れするほどだった。

元春は慣れた感じで、受付に行く。

案内されたテーブルにはピンクのバラが置いてあった。

「大丈夫? 高いんじゃない?」

「大丈夫だよ。メニュー選んで」

メニューを見て、泡を吹きそうになった。

値段が、高すぎる。

「こんなの選べないよ」

ワタシが言うと、じゃあ、と元春がこれでいい?

と、お勧めシェフの日替わりメニューって言うのを選んだ。

「ワインも飲もう」

元春がワインを選んで、しばらくするとワインが運ばれてきた。

カチンと、ワイングラスを重ね合わせると、元春が、「話があってね」と切り出した。

ガサガサとカバンの中から小さな箱を取り出した。

ここまでくると、鈍感なワタシでも分かる。

「俺と結婚しよう」

はいと言うのに、時間なんてかかんなかった。

ワタシの返事に、元春は春のような暖かな笑みを見せた。

ワタシが妊娠していることに気づいたのはそれからちょっと後だった。

つわりもだいぶ楽で、無痛分娩で子供を産んだ。

「可愛い」

腕に抱いた子供に喜びの日々を与えてあげたいと思った。

「喜びをあなたにあげるね」

ワタシはそう言って。

元春が頷いた。

これから大変なこともあるだろうけれど、元春と一緒ならやっていける。

名前は。

一葉(かずは)。

本当に幸せな日々をこれから送っていくんだ。

一葉は何があっても、ワタシたちが守るからね。

それからバタバタと退院して、家に帰って。

一葉がここで育っていくのかと思うと、感慨もひとしおだったんだ−−。

Fin

あなたの親友になりたい(小説全部)

 

「はーい、カット~」

私は映画研究会に入っていた。

その仲間で、今でも映画を作っている。

同じ映画研究会のメンバー、前田明里(あかり)と友達、いや親友になりたいのだ。

なぜかというと。

前田さんは、映画研究会で脚本を書いているけれど、そのストーリーが最高なのだ。

胸を鷲掴みって感じで、感動するのだ。

だから、親友になりたい。

こんな素敵な作品を作る人と親友になれたら、最高だからだ。

今度勇気を出して話しかけてみよう。

「橋本さん、カメラ上手く撮れた?」

「あ、はい」

私の名前は橋本未来(みらい)。

自分でもこの名前が気に入っている。

私の映画研究会での役割はカメラ撮り。

ところどころ澄んだ青い空や優しい木漏れ日や綺麗(きれい)な花を撮って入れるのを覚えておくと、いい。

あとは編集担当の池波紫苑(いけなみしおん)に任せておけば、かっこよく編集してくれる。

前田さんの脚本は、暖かい日差しのようでそして面白い。

出てくる人皆優しいし明るい。

一癖二癖あるけれど、それが個性的でいい。

「ま、前、田……さん」

勇気を出して前田さんに声をかけた。

「何?」

前田さんは、不思議そうに見返す。

「いい天気ですね」

もっといい言葉があるはずなのに、こんなことを。

「うん、しばらくいい天気らしいよ」

「そうなんですか」

「うん」

でも、こんな会話すらできたことが嬉しい。

「わたし、急いでいるからごめんね」

前田さんはそう言って、その場を去る。

あ、アドレス聞いておけば良かった。

前田さんと親しくなるには、アドレスの交換くらいしとかないと。

そんなことを思いながら、家に帰った。

 

「ここのシーン、どういう角度で撮ったらいいですか?」

前田さんに尋ねる。

「ここはね、こんな感じ」

前田さんはささっとコンテを描いて見せてくれた。

「あ、いい感じかも」

木漏れ日を浴びている役者を綺麗(きれい)に撮る。

役者は5人。

5人だけで話が回るように脚本は練られている。

いい作品だと思う。

どこか面白さがあって。

優しい温かな話。

「橋本さん、こっちからも撮って」

前田さんが指示を飛ばす通りに動く。

こんな温かい話、どうやって思いつくんだろう。

今日の撮影が終わって、前田さんに話しかけた。

「アドレス教えてください」

「うん。いいよ」

前田さんから許可を得て、アドレスを交換する。

スマートウォッチを重ね合わす。

これで、話ができる。

「じゃあ、私、行くところあるから」

前田さんは、その場から去った。

家に帰って、前田さんにメッセージを送ろうとする。

でも、何を書こう。

少し時間がかかったけれど、前田さんにメッセージを送った。

返事を待って、待って、待っているけれど、来ない。

きっと手が空かないんだな。

そう思って、心を慰める。

翌日の朝、メッセージが届いていたので、小躍りした。

たった一行だったけれど、それでも嬉しい。

急いで返信を送る。

返信は返ってこなかった。

 

橋本さんから、メッセージが届いているのに気がついたのは、家の仕事が全部終わって、子犬の信実(のぶみ)を散歩に連れて返ってきた後だった。

わたしの家は親が2人とも帰りが遅いので、家のことはわたしが全部やる。

幼い妹がいるから、幼稚園に迎えに行って、買い物をして、信実の世話。

家のことをやるのは好きなのだ。

犬の世話も好き。

必要なことが全て終わってスマートウォッチを見ると、メッセージが届いてた。

ああ、橋本さんからだ。

橋本さんと、友達になりたいな。

どうせなら親友に。

友達、多い方が楽しいし。

親友になって、恋バナとかするのもいいなぁ。

メッセージに返信を、と考えて、何を書けばいいのか考えた。

考えて考えて考えて。

お風呂の間も考える。

やっと返信をする。

もう、寝てる時間かもしれない。

わたしも寝なきゃ。

夜10時から深夜2時までは睡眠のゴールデンタイム。

この時間に寝てると身体にいい。

寝る前は脚本を考える。

シナリオライターになるのが夢だから、ちょっとした時間でも脚本を考えるようにしている。

次の作品は、もっと見せ場を作りたい。

印象的なセリフも考えて。

映画だけでなくドラマの脚本も作りたい。

ドラマより映画の方が簡単だと私は思う。

でも、ドラマの脚本を書くのも楽しい。

1話の間にコマーシャルを入れる時間もとって、その中でも小さな起承転結、全話の中でも起承転結を作る。

簡単ではない。

けれどそれが面白い。

上手くいった時には幸せを感じる。

わたしの朝は早い。

顔を洗って。髪をとかして。着替えをして。

野菜を入れたスムージーを作って、食べる。

片付けをする。

洗濯もして、今日はシーツを洗おう。

掃除を家の前だけとりあえずやる。

家の中は帰ってきてからだ。

映画研究会の集まりに向かう。

映画研究会の集まりに行って嬉しいのは、役者の、信海豊(しんかいゆたか)に会えることだ。

信海君とは恋人になろうと思っている。

とは言ってもまだ友達にもなれていないけれど。

今度、信海君に話しかけてみよう。

 

「信海豊さん、おはようございます」

うちのAIロボット、ビリーブに話しかけられた。

「おはよう、ビリーブ」

名付けは母さんだ。

顔を洗って、ご飯を食べに行く。

オレが好きなのは、母さんの作った料理全般。

今日はご飯に納豆と味噌汁。

納豆はよく噛むといいらしいので、よく噛む。

といっても、ご飯は全部よく噛んで食べたほうが消化にいいので、全部よく噛んで食べる。

家から出ると、ハナミズキが咲いていた。

綺麗(きれい)な花で、オレは好きだ。

中がピンクで、花びらのところが白にグラデーションでなっているのが、なんとも言えない。

今日は日曜なので、映画研究会の集まりがある。

土曜と日曜が集まりの日なのだ。

オレが映画研究会の集まりに行くのは、前田さんに会えるからだ。

といってもまだ友達にもなれていない。

まずは友達にならなくては。

今日こそ話しかけるぞ。

前田さんの書く脚本は優しさであふれている。

それが好きだ。

「楽しいな」

そんなことを言って穏やかに笑うシーン。

「すごく、幸せだわ、私たち」

役者の日向(ひなた)みどりがセリフを言う。

そこで撮影が終わった。

「すごくいいのができたわ。ありがとう。あとは編集をお願い」

前田さんが言った。

池波が「よし任されたっす」と、言う。

池波とは友達だけど、親友になりたいと思っている。

もっと、いろんな話ができるといいよなぁ。

いつも帰る時間より早く終わったので、前田さんに話しかけようとしたら、橋本さんが前田さんに話しかけていた。

先越されたな。

まぁ、中に入って話に混ざればいいか。

「何話してるのかな?」

「前田さんのシナリオの感想を」

橋本さんが答えた。

「いつもいいけど、今回のシナリオは、練りに練ってあるって感じで、良かったよ」

オレが言うと、前田さんは可愛らしく笑った。

「これから、ファミレスかなんかで話をしない?」

オレの言葉に橋本さんが頷く。

前田さんは、少し迷った顔をしてから、「ごめんなさい、今日は、早く終わったから、次の脚本を書きたくて」と言った。

「あ、いいよ。それなら」

「じゃあ、私も帰るわ」

橋本さんも抜けて、オレは前田さんにアドレスを聞いて、その場は終わった。

家に帰って夜、前田さんにメッセージを送った。

「脚本の進み具合はどうですか?」

前田さんから返信が届いた。

「もう少し時間がかかりますけど、いいペースで書けています」

オレは翌日、役者を目指す人のワークショップに通った。

金曜はオーディションやエキストラの仕事を探す日に当てている。

仕事は火曜から木曜まで。

オーディションやエキストラの仕事と重なった日は休ませてもらっている。

家に帰ってからは、サイスに演技した動画をアップ。

頑張っていると自分でも思う。

お金は、親と住んでいるから食費とかもかからないし、今入ってくるお金はほとんど貯金にあててある。

「イエーイ。池波っす。信海さん、オンライン飲み会しないっすか?」

池波はオレより1つ下だから、丁寧語で話してくる。

「タメ語でいいし。さん付けもいらないよ」

「そうっすか? あ、丁寧語になっているっすね。慣れっすね」

サイスで池波と話しまくった。

これ、親友確定じゃね?

「お、オレたち、親友だよな?」

池波に思わず問いかけると、池波はいつもの明るい表情で、答えた。

「親友すっよ」

やったぁ!

 

イエーイ、池波っす。

映画や動画の編集をしてるっす。

信海君と親友なんっす。

好きな人がいるっす。

カメラを撮ってる橋本さんが好きっす。

この前アドレスを交換してから、サイスで話すことが多くなって嬉しいっす。

幸せって、こんな小さなことで、感じるものなんすね。

今日は一日中動画編集してたっす。

サイスにあげる動画を頼まれて、有料で編集しているっす。

いい稼ぎになるっす。

動画編集は得意だし、好きだから、楽しいっす。

将来、橋本さんが撮った動画を編集して発信できたらいいっすね。

橋本さんにアプローチのメッセージ送るかな。

ちょっと勇気を出して。

文面とかきちんと考えたっす。

返信が来た!

イエーイ。

嬉しいから鼻歌をうたう。

橋本さんを誘ってカフェでお茶でも飲みながら話そう。

返信が来た。

イエーイ!

そして、今ここカフェにいるわけなのだ。

カフェは綺麗(きれい)で、和やかな雰囲気。

バックミュージックとして、80年代の明るめの曲が流れているっす。

歌詞にビリーブとかハッピーとか言っているから、良さげな曲だ。

思わず聴き惚れる歌声。

「カメラで橋本さんが撮ったものを編集して動画配信したいんっす」

砂糖を入れたコーヒーを飲みながら、そう言うと、橋本さんは、コップに入ったストローをかき混ぜながら「私でいいのかな?」そう尋ねてきたっす。

「いいから言ってんすよ♪」

橋本さんは「じゃあ」と、言って、握手を求めてきたっす。

橋本さんの手細い。

華奢で、少し冷たいっす。

「もう、手」

ハッとして手を離したっす。

ここはイエーイと喜ぶところだけど、嬉しすぎで顔が熱いっす。

「私ね、前田さんと親友になりたいんだ」

橋本さんは、少し照れたような顔で言ったっす。

「前田さん? いつも忙しそうっすよね」

「うん、だから、チャンスがなかなか」

そんなことを話して、別れたっす。

うん、これもう告白していい感じっすよね。

動画が完成して、土曜はお披露目会になった。

 

「すっごい、良かったです。わたしの思い通りに、編集してくれた池波君に拍手を」

みんなが拍手する。

「すごくいいシナリオ作ってくれた前田さんにも拍手~」

信海君が言う。

「役者のみんなもよく演じてくれて、ありがとう」

前田さんが嬉しそうに笑った。

「撮ってくれたカメラ担当のみんなもありがとう」

私はこの映画を完成させられたことが嬉しかった。

「この映画を、公募に出そうと思ってるの」

みんなが頷く。

「わたしは脚本で食べていきたい。できたら、みんなとも一緒にやっていきたい」

「オレも、役者で生きていくって決めてるんだ」

信海君が声をあげた。

「私もカメラマンになりたい。前田さんの脚本で」

「動画編集は任してくれっす」

私のあと、池波君が叫ぶように大きな声を出した。

みんなが笑う。

公募、通るといいけど。

私は前田さんに話しかけた。

「次の脚本は、どれくらいできているんですか?」

「完成したわ。印刷したの渡そうと思ってたの」

前田さんは鞄から脚本を出して、みんなに渡しに行く。

脚本を受け取って、その出来の凄さに感動した。

「すごい、素敵」

「本当に?」

前田さんはちょっと恥ずかしそうに顔を下に向けた。

「前田さん、親友になってください!」

思い切って言ってみると、前田さんは顔をくしゃっとさせて、「ありがとう。私も親友になれたらいいと思ってたの」と笑った。

嬉しさで飛び跳ねたくなった。

頭の中で誰かと乾杯をしている。

幸福で、顔がにやける。

その時、信海君がやってきて、「前田さん、恋人になってください」と言ってきた。

前田さんの脚本の凄さに告白したくなったのね。

私みたいに。

「わたしでよかったら」

私はうずうずしてきた。

池波君のそばに寄って、「あのね、いつの間にか好きになっちゃったんだ」と言うと、池波君は顔を真っ赤にして、「イエーイ」と叫んだ。

それから告白大会みたいになって。

何人かペアになった。

池波君も私を好きだったとは。

嬉しくて、幸せで。

それから次の脚本を読み込んで、日曜日から新しいこの脚本を撮っていく。

公募は通って、賞金100万円をみんなで分けた。

次なる公募に向けて頑張っていく。

それが楽しくて。

嬉しくて。

喜びあふれてきて。

毎日が楽しい。

賞金の高いところをさらに応募して。

映画は、映画館でやってもらえるようになり。

サイスの映画を見るページでも取り扱ってもらえるようになった。

また、前田さんとはさらに仲良くなり、私も犬の散歩に付き合うようになった。

池波君とは同棲を始めた。

気が合って、毎日動画を撮っては編集してもらい、サイスにアップ。

お金がだいぶ入るようになり、これで生活できるって感じになった。

前田さんの名前は、知れ渡り、信海君と結婚すると聞いた。

結婚式は楽しくて、喜びあふれる式となった。

私と池波君の結婚式もそろそろ執り行う。

毎日がハッピーだ。

Fin

夢を信じて(小説完成)

おれは、神野(じんの)疾風(はやて)という。

おれの夢は漫画家。

穏やかな気分になれる漫画を描くのが目標だ。

とはいっても、まだ作品を完成させたことはない。

なぜなら、ついさっき漫画家になろうと思ったばかりだからだ。

漫画を読んで、こんな作品が描きたい、と思ったのだ。

その漫画は女性用の漫画だけれど、心を打つセリフに胸が貫かれた感じだった。

まず、漫画家になるには、とかの本を買って読み漁り、実行した。

ネーム(下書きの前段階)。

別用紙でストーリーが分かるよう描き込む。

ストーリーは起承転結に。

といってもおれの描きたい漫画は、ほのぼのしたものなので、起承転結にこだわらない。

「疾風さん、メッセージが届いております」

おれのAIが声をかけてきた。

おれはそのAIに愛と名付けて、可愛がっている。

「愛、ありがとうな」

「どういたしまして」

「メッセージを開いてくれ」

大野絵幸恵(おおのえゆきえ)からの、メッセージだった。

「久しぶり、神野君。漫画家目指してる人同士で会ってネームを見せ合って、推敲しあって描こうって話が出てるの。疾風(はやて)君もどうかな? 今度の日曜日だけど」

幸恵(ゆきえ)さんとは、ネットで知り合った。本当の名前は知らない。

「いいよ」

メッセージを返信する。

おれは、幸恵さんが結構好きだ。

というかとてつもなく好きだ。

いわゆる恋しちゃってるって感じだ。

幸恵さんは犬を飼っているらしく、犬との日常を漫画にしている。

ほのぼの系の話で、読んでいてほっこりする。

漫画の描き方で知らなかったことを教えてくれたのも、幸恵さんだ。

おれは疾風(はやて)という本名をネットで使っている。

サイス(インターネット・コミュニケーション・ツール)では、結構たくさんの友達ができた。

さて、ネームを考えなくては。

 

「久しぶり〜」

幸恵さんが嬉しそうに笑いかけてきた。

「幸恵さん、元気そうで良かった」

「元気よ〜♪ ヨーグルトと納豆とキムチと漬け物と甘酒でお腹の中から元気よ」

「他のメンバーは?」

「あ、ども。光(ひかり)です」

「はじめまして、疾風(はやて)です」

「こっちにも、1人いるぞい。ラッキーや」

「ラッキーさん、はじめまして」

「じゃあ、私のうちに行きましょう」

光(ひかり)さんは、綺麗(きれい)な金髪の優しそうな女の人だった。

ラッキーさんは身体の大きな、大らかそうな人だった。

そして、幸恵さんは、ショートの髪の明るい人だ。

彼らと会話をしながら、幸恵さんの家に向かう。

春らしい、綺麗な花が所々生えている。

空も雲一つなく透き通った青色をしている。

幸恵さんの家は駅から少し離れた緑の多い公園の隣にある高価そうなマンションの中だった。

8階までエレベーターで上がる。

「ここよ」

ドアノブに可愛らしいイラストと「Welcome」と書かれている飾りがかけられている。

部屋の中は女の子らしくパステル調の色合いで、貝殻や、ブーケや、水晶とかが飾られていて、海の絵と花の絵と、綺麗(きれい)な花が飾られていた。

「素敵な部屋だな」

光さんが部屋を褒めた。

「ありがとう、適当に座ってて。飲み物準備してくるから」

おれたちは、大きなテーブルの前に座る。

「漫画家になろうと思った理由は?」

ラッキーさんが、聞いてきた。

「アタシは、人を感動させたいから」

「おれは人に癒しを与えたいからだな」

ラッキーさんは、それを聞くと、自分の描き始めた理由を言った。

「ワイは漫画で勇気を与えたい」

「わたしはね、人をほっこりさせたいな」

戻ってきた幸恵さんが言った。

「幸恵さんの作品はどれもほっこりしているよ」

幸恵さんの持ってきたのは、ミントティーだった。

「ミントは集中できるって言うし、他のが良かったら変えてくるから言って」

「大丈夫」

光さんの返事に、おれとラッキーさんも頷く。

「じゃあ、ネームの見せ合いっこしましょうか」

おれは初めてネームを書き上げたので、どういう評価か気になった。

しばらくみんな無言になり、ネームの感想をスマートウォッチにメッセージを入れて、教えてくれた。

「みんなうまいね」

おれはその話の良さに圧倒されて、思わず呟いた。

「疾風(はやて)君のネームは丁寧に描いてあるのね。表情とかがいいと思うよ。ストーリーは、優しくて柔らかくて和む感じ。よく描けていると思うけど、正面から見た上半身が多いから、色んな角度から、全身を描いたりアップを描いたり、遠くから描いたりしてみるといいよ」

幸恵さんのメッセージ。

「そうやな、漫画なんだから、色んな表情を描けるといいわな。まあ、まだネームの段階でいうことやないか」

ラッキーさんのメッセージ。

「分かりやすい作品で、いいと思う。面白いところを増やすといいよ」

光さんのメッセージだ。

「じゃあネームの描き直ししていきましょ」

幸恵さんの言葉に皆頷いて、描き直していく。

面白くか、どう描こう。

真剣に集中して、考える。

描いていて楽しいのが一番だ。

楽しい気分を満喫しながら、描き上げていく。

だいぶ、いい感じにネームが描けた。

「これ、どうかな?」

「早いね、疾風君」

ラッキーさんが驚いたように、声をかけてくれた。

「あたしから見るわ。代わりにあたしのも見てくれる?」

光さんが言って、お互いのネームを交換した。

「さっきより面白くなってる。いいと思うよ。角度もいいし、分かりやすくなってる」

光さんのメッセージに、喜びを感じた。

下書きにうつろう。

丁寧に描いて。

人間らしく、表情豊かに。

優しい絵柄を目指して。

穏やかな気分になれる漫画を。

描く!

「ネームより表情うまくなってるやん。いいんじゃないかと思うよ」

ラッキーさんが微笑んでくれた。

「あ、そこ、面白い」

幸恵さんが楽しそうに笑ってくれた。

嬉しい。

そんな感じに1日が終わって幸恵さんちを出た。

「疾風君、幸恵さんのこと好きやろ?」

ラッキーさんが話しかけてきた。

「わ、分かりますか?」

思わず声が裏返った。

「ワイも好きなんや。ライバルやな」

ラッキーさんがライバル。

「どっちが選ばれても、仲良くいこうや」

やっぱりラッキーさんは大らかだった。

「はい」

背筋を伸ばして返事すると、握手を求められた。

握手して。

ラッキーさんとなら、幸恵さんがどちらを選んでも大丈夫だと信じられた。

 

翌日、絵の練習をする。正面以外の角度を、自分で写真を撮ってそれを見ながら描いていく。

サイスに載っている写真も絵におこす。

背景も上手くなりたいので、いろんな写真を描いていく。

上手い人の絵も模写して。

どんどん上手くなってくるのが目に見えて分かって、嬉しい。

描きたいように描くと、下書き描きを再開した。

さっきより上手くなっている気がする。

さっきの下書きも描き直して。

どうかな?

結構うまく描けたと思うけど。

幸恵さんに聞いてみよう。

メッセージに下書きの写真を送ってみる。

「だいぶ上手いけど、視点を作るといいわ。こんな感じに、目線や手の向きや線などが、一番見せたいコマに集中するようにするの」

下書きを書き直して聞いてみる。

「うん、うまくなった」

幸恵さんの返事に喜ぶ。

描くのが楽しい。

少しずつ上手くなっているのを実感する。

さて、ペン入れ。

うまい線を引くよう頑張る。

デジタルで描いているから、やり直しも簡単だ。

ペン入れしたあと、幸恵さんにメッセージを送る。

「線を柔らかく描けるように練習してみて。あと、白と黒のバランスを考えてね」

健康的な野菜たっぷりの夕飯を食べた後、直してメッセージを送る。

「だいぶ良くなったと思うよ」

ここで眠くなったので、翌朝続きを頑張ろう。

 

3か月かかって漫画が完成した。

プロになるには、もっと描くのを早くしないとな。

でも、描いていくたびに絵が上手くなるから、最初に描いたやつも描き直しして時間がかかるんだ。

上手くなるのはいいことだから、このまま続ける。

幸恵さんに漫画を画像で送ってみた。

「短編なら1つの作品にせめて3、4個見せ場があるといいね。長編ならもっと必要だけどね。他のコマより手を入れて魅せる絵を描くのよ」

魅せる絵。

とりあえず次の作品から頑張ろう。

次の作品に取りかかった。

人を穏やかな気分にさせるそんな漫画を目指して。

ストーリーは優しく楽しく明るく元気に。

いい言葉を使って、描く。

穏やかな気分になるような優しい絵柄で、描く。

今度は、小説家になりたい人が成功していく作品。

楽しい主人公で、笑いを取る。

そんな風に描いていたら、描くたびに、話が良くなり、何故か自分も、元気になってきた。

幸恵さんにネームを送ると、「いいよ、これ、好き」と返ってきた。

「ほのぼの系の漫画いいよね。心が暖かくなる」

幸恵さんがそう言ってくれた。

思わず告白したくなった。

「幸恵さん、好きです」

「そういうことメッセージに書くもんじゃないよ」

うわ、早まったか。

「私も好きだけどね♪」

幸恵さんの言葉に喜んで、部屋で踊りまくった。

それから漫画描きもだいぶ簡単になって、早く描けるようになったし、上手く描けるようになった。

雑誌に送ると、電話がきて、「雑誌に載せたい」と言ってきた。

おれの漫画はどんどん売れてきて、印税で食べていけるようになった。

幸恵とは、仲良く続いている。

結婚をしようと、プロポーズは、雰囲気のいいレストランを選んだ。

「ここ、素敵ね」

幸恵ーー本名は今泉雪絵(いまいずみゆきえ)は、嬉しそうに笑った。

「結婚してください」

おれが言うと、雪絵は、可愛らしく笑って、「言われるの待ってた」と言った。

結婚式には、ラッキーさんや光さんが来た。

ラッキーさんに謝らなくては。

ラッキーさんに近づくと、ラッキーさんは、耳を寄せろとジェスチャーしてきて、耳を寄せると、「今ワイ、光と付き合っているんや。だから、何も言わなくていいぞ」

と。

ラッキーさんも光さんも雪絵も、漫画家になって、うまくいっている。

そして、今おれの漫画はアニメ化されて、漫画も売れまくって、最高の毎日だ。

 

Fin

初めまして

初めまして、ありがとうございます。

初めまして、ありがとうございます。

ツイッターは自分で管理できなくなったのでフォローから削除してください。すみません。

私はハッピーエンドの小説、漫画、ドラマ、アニメ、映画、ゲームが好きです。

ラブコメや、ファンタジー、SF、などが好きです。

面白かったり、感動できる話もいいですね。

あと、綺麗な言葉で作られている作品が好きです。

そういう言葉で作られた話を書きたいと思って短編小説を書きました。

でも、それだけでは、書くのが簡単ではないので、うまく成功できないんですよね。

今は、小説を書き上げられなくて止まってしまった話もあります。

すべてを綺麗な文字だけで書けてはいませんが、頑張りました。

 

小説 短編小説 喜びをあなたに

小説 短編小説 夢を信じて

小説 短編小説 優しいイラストが描きたい

小説 短編小説 みんなしあわせ

優しいイラストが描きたい(小説完成)

優しいイラストで、人を幸せな気分にさせたいな。

優しいイラストで、人に元気を与えたいな。

優しいイラストで、人を幸せにしたいな。

 

 

第1章 やさしいイラスト

 

私は、17歳。

優しいイラストを描きたいと思って、14年。

淡い色合いで、薄い色を使って色鉛筆風のデジタルで絵を描くのが好き。

認められたくて、毎日イラストを描いています。

何より描くのが楽しい!

まだオンラインに載せてないのは、イラストの完成に時間がかかるのと、まだまだもっといいのが描けるって、描き直しするから。

「はる、千春(ちはる)!」

ハッとして前を向くと、目の前に友達の縁(ゆかり)がいた。

「ずっと気が付かないんだもの」

「夢中になっちゃって」

「それだけ集中できるのは、いいことだけどね。ご飯食べてないでしょ。食べに行こう」

「あ、そっか、行く」

スマートウォッチを閉じると、縁と一緒に、食堂に行った。

ざわざわとした食堂で、縁と話していて気付かずに、前の人にぶつかった。

「あ、ごめんなさい」

「大丈夫、こちらこそ、ごめんね」

イケてるというのか、カッコいい男の人だった。

思わず見惚れていると、彼は、颯爽と食堂を出て行った。

「縁、今の人……」

「ん? 花嶋先輩だね。野球部の」

野球部。

野球に対する興味なんてなかったけど、興味出てきた。

「野球ってサイス(インターネット・コミュニケーション・ツール)でやってるっけ?」

「あんた、サイスに詳しくないな。サイスでは、あらゆるスポーツ、ゲーム、映画、ドラマ、漫画、小説、etc(エトセトラ)……、ほとんどの娯楽が見られるよ」

「そうなんだ」

サイスすごいなと思いながら、食堂に並んだ。

和食定食にする。

身体にいい納豆を食べるのが、好きで。

魚も食べるのが好きだ。

特にツナが好き。

お肉も食べるのが好きだ。

野菜も食べるのが好きだ。

豆類も食べるのが好き。

「いただきます」

手を合わせて食べ始める。

お腹が空いているので、よく噛んで食べる。

口に食べ物が入っている間は、無口になる。

きちんと口を閉じて食べる。

鼻呼吸だから、口を閉じていられる。

鼻呼吸は、身体にいいのだ。

「千春は、綺麗(きれい)に食べるよね。魚とか、表のままで食べるし」

「そういう縁も、全部食べてて綺麗に食べてるよ」

食欲たっぷりで、デザートも食べたいな。

チーズケーキにしようかな。

「チーズケーキ買ってくる」

「私が買ってくるよ。私フルーツ買ってくる」

「オリーブオイルをスプーン1杯取るといいよ。消化が早くなるから。いいオリーブオイルは苦味と辛みがあるんだって」

「食堂にオリーブオイル売ってるかな?」

「私持ってるよ」

オリーブオイルは小分けにして持ち歩いている。

「ありがとう」

食事を済ますと、会話タイム。

「こうやって一緒に食事できるっていいね」

そう縁に笑って言うと、縁も笑って言った。

「そうね、私たち幸せだよね」

幸せな時間が、長く続いている。

いつも、幸せだと思う。

幸せがこれからも続くと思う。

家に帰って、イラストを描く。

毎日何時間もイラストを描いていると、描くのが上手くなってきた気がするし、描き上げるのにも早く描けるようになった。

満足する作品が増えてきた。

それをネットにあげて。

評価がいい。

ぽつぽつとイラストを買ってくれる人が増えた。

だんだん、お金が貯まってきた。

少しは人を喜ばす優しいイラストを描くことができるようになってきたかな?

 

 

第2章 花嶋先輩

 

学校で、花島先輩に会うけれど、野球を見ているだけで、声をかけたいけど……。

そんな学校の帰り道で、花嶋先輩に会った。

偶然会えたのは嬉しい。

思わず勇気が出て、花嶋先輩に声をかけられた。

「花嶋先輩」

呼びかけたはいいけれど、次何を喋ろう。

「君は?」

「あ、えっと、幹里(みきさと)千春です」

「ああ、食堂でぶつかった子だね」

覚えててくれた。

「前は見て歩こうね」

言われてしまった。

「それで何?」

「あの、アドレスを交換しませんか?」

「アドレス? いいよ」

花嶋先輩はもうすぐ卒業する。

会えなくなる前に、話ができて、アドレスを交換できて良かった。

サイスのアドレスを交換すると、花嶋先輩と別れた。

もっと一緒にいたかった。

けれど、今日の収穫はあるものね。

家に帰ってもイラストを描く。

少しでも上手くなれば、イラストで食べていけるかもしれない。

流行は追わず、自分の描きたいものを描いていく。

そのうち、思い通りのイラストが描けるようになってきた。

メッセージを花嶋先輩に送る時、このイラストも添えて送ってみよう。

花嶋先輩からの返事を待つ間もイラストを描く。

もっともっと上手くなりたい。

花嶋先輩から返信が来た。

−−綺麗だね、優しくて心が癒される−−

良かった、気に入ってもらえた。

お礼の返信を送ると、「他にも見せて欲しい」と返信が来た。

他にも数点送ると、喜んでもらえた。

好きな人に自分の描いたイラストを認めてもらうのってすごい。

やる気がみなぎってきた。

花嶋先輩とチャットをすることになって、嬉しい。

花嶋先輩が、私のイラストは、見てもらえれば、いいって伝わって稼げるはずだと、いいところを教えてもらった。

そこはサイスの中で優良な作品ばかりが載るところで、ランキングがつけられている。

審査を通らないと載せることもできないけれど、審査に通った。

ランキングはまだ下の方だったけれど、作品を描くたびに上がってきて。

私のイラストがランキング1位を取るようになり、お金もかなり稼げるようになった。

「花嶋先輩にお礼を言わないと、そして、告白しよう」

その頃花嶋先輩は卒業して会社に入っていた。

日曜に、お茶に誘った。

心臓がバクバクする。

もし受け入れてもらえなかったら?

もう花嶋先輩しか考えられない。

日曜になるまで、夢の中で花嶋先輩を見ていた。

日曜になり、いつもより可愛い服を着て、いい香りを身につけて、化粧をして、素敵な鞄を持って、綺麗な靴を履いて。

1番魅力的な私になるの。

途中の道で、美しい花を見て。

なんだか、夢が叶いそう。

「待った?」

「今来たところです。カフェ、こっちです」

道を右に向かって歩く。

心臓が速くなりすぎて、聞かれてしまいそう。

期待なんてしてなかった。

ただ、伝えたかった。

ただの憧れではないから。

喫茶店の中は優しい音楽が流れていた。

気持ちが落ち着く。

紅茶が運ばれてきたので、告白する。

「花嶋先輩、好きです」

「え?」

「ダメなのはわかってます。ただ、言いたくて。迷惑かもしれませんが」

「待って待って、早とちりしないで。僕も君を好きだよ」

「え?」

花嶋先輩が柔らかく笑った。

大好きな花嶋先輩が。

「友達って意味じゃないですよ。恋愛って意味で」

「僕も、そうだよ」

それからは、どうやって家に帰ったかわからないくらい、ふわふわした状態で、花嶋先輩が家まで送ってくれたのだ。

もう胸が喜びで溢れる。

そうして描いたイラストはとても素敵なものになった。

ダウンロードしてくれる人が増えて、お金は一生困らない程度には稼げるようになった。

これからも幸せな優しいイラストを描いていこう。

花嶋先輩とはどんどん会う回数が増えて、気がつくと毎日会っていた。

「幹里千春さん。あなたはこの男性に忠誠を誓いますか」

讃美歌の聴こえる中、結婚式が粛々と行われる。

ブーケを投げて、次の人にも幸福を。

花嶋先輩の下の名前は、信矢(しんや)。

信矢と一緒にこれからを生きていく。

それから子供もできて、子供もいい子に育って。

夫婦仲円満で。

私のイラストを見て幸せな気分になれたと、たくさんのありがとうをもらった。

人生、やったね♪

 

Fin

みんなしあわせ(小説完成)

※少しだけ良くない言葉も使っています。

 

透明な魔術を知っているかい?

みんなが幸せになる魔術だよ。

みんなが思い合える魔術だよ。

みんなができるようになる魔術だよ。

これからも幸せでいられますように、みんなの幸福を願う魔術。

これから一緒にその道を歩いて行こう。

 

 

第1章 よろこびのみちたせかいへ

 

これから喜びの満ちた世界へ行くよ。

きっとなんとかなる。

大丈夫さ。

 

素敵なゲームを思いついた。

その中ではどの方向を選んでも誰もが幸せになる。

そんな話を作ろうと思うんだ。

僕は、いつだってそんなことを夢見てきた。

まずは綺麗で美しく明るい言葉で自分を浄化する。

そしてポジティブな言葉を使えるようにするんだ。

敢えていい言葉を選ぶんだよ。

夢と希望の世界へ、そして、愛あふれる世界へ。

喜びあふれる楽しい世界へ出発だー。

 

 

「森野中(もりのなか)水樹(みずき)君、おはようございます」

僕のAI(エーアイ)(えーあい)(※人工知能)が、語りかけてくる。

AIに返事をする。

僕は今家族6人と暮らしている。

僕の家は、恵まれた家で、祖父、祖母、父、母、姉、そして僕の6人の暮らしはとても楽しい。

階段を降りると、そこには居間があって、家族が勢揃いしていた。

「おはよう、水樹」

家族の皆が僕に挨拶してくれた。

「ゲーム作りはどう、はかどってる?」

姉の花華(はなか)姉ちゃんが問いかけてきた。

「うん、まだ先は長いけどね」

「作り始めてからちょっとなんじゃろ? しかたないわな」

祖父の広貴(ひろたか)おじいちゃんが、声をかけてくれた。

祖母の舞喜(まいき)おばあちゃんの膝の上でくつろいでいる雌猫の貝殻(かいがら)が、にゃーんと鳴いた。

「お腹空いているでしょ。アミ塩辛の入ったキムチ食べなさい。身体にいいわよ」

母の希望(のぞみ)お母さんが、声をかけてきた。

それに応えるように、雄犬のラブがワンと鳴いた。

「今日は会議で帰りが少し遅くなるよ」

父の聖次(せいじ)お父さんが、希望(のぞみ)お母さんに声をかけた。

「分かりました。帰りに、駅前の果物屋で何か果物買ってきてくださる? ケーキを明日作ろうと思っているの」

希望(のぞみ)お母さんがそう聖次(せいじ)お父さんに頼んだ。

「ケーキ? 楽しみ」

花華(はなか)お姉ちゃんが笑って希望(のぞみ)お母さんに話しかけた。

「チーズケーキがいいな」

僕が言うと、希望(のぞみ)お母さんが、頭を振る。

「フルーツタルトよ。でも、美味しく作るから楽しみにしてね」

「フルーツタルトもいいね」

僕は笑って言った。

フルーツタルトは消化の早いもの(フルーツ)と消化の遅いもので作られているから、オリーブオイルをスプーンで一杯一緒に取ると体にいいんだよな。(フランク・ラポルト=アダムスキーさんの「腸がすべて」より)

今日の授業は、透明な魔術の方法だ。

僕は水の魔術を使うことができる。

魔術も、適性があって、人によって得意なものが違う。

その中でも、透明な魔術は、皆が使うことができるようになるらしい。

僕はまだ教わっている途中だから、まだ使えないけれど、いつか使えるようになると信じている。

そうすれば、ゲームも早くいい物が作れると思うんだ。

今日の授業が楽しみでならない。

食事を終え、「いってきまーす」と外に出る。

今は春。

暖かな春の日差しが気持ちいい

新緑の清々しさ。

咲き誇る花たち。

学校に通う途中の道で、友人の楽多(らくた)が声をかけてきた。

「今日はhappy(ハッピー)。信矢(しんや)」

happy(ハッピー)という言葉が、彼のマイブームらしい。

「やあ、楽多(らくた)。おまえは前から変わらないな」

僕は、楽多が友達として好きだ。

ちょっと楽観的で、ポジティブな楽多が。

「今日は、透明な魔術の授業だな。今日こそ、透明な魔術を使えるようになりたいぜ」

僕の言葉に、楽多は頷く。

「んだな。使えるようになったら、happy(ハッピー)だぜい。すぐに、使えるようになるけどな」

楽多のポジティブな言葉に励まされることが多い。

「昨日もゲーム作っててさ」

僕は、昨日の話をする。

「作っている最中に、心が和んでくるんだよな」

「そりゃすげーや。できたらおらにもやらせてくれよな」

「もちろん」

楽しい会話の最中に、専門学校の門が見えてきた。

僕らが通っているのは、魔術に特化した専門学校だ。

僕は今22歳で、楽多は25歳。

楽多は大学を終えた後、この専門学校に入学してきた。

楽多の仕事は作曲家だ。

人を幸せにする仕事をしている。

作曲家として、かなり有名で人気があり、僕としても友達になれたことが鼻が高い。

僕のゲームにも曲を提供してくれると言うので、嬉しい限りだ。

楽多の曲を聴くと、すごく気持ちがいいし、良い気分に浸れる。

そんな曲をゲームに使わせてもらえるなんて、最高だ。

あとは素敵なイラストを描く友達ができた。

ネットで知り合った友達で、見てると気分の良くなるイラストを描く人がいるけれど、ゲームに使わせて欲しいって、言ってみるかな。

勇気を出して言ってみようっと。

彼女の描くイラストを使ったゲーム。最高だもんな。

もちろんお金を支払うよ。

友達だからって、報酬は与えないとね。

そのために、仕事を探した。

ゲーム会社は自分で立ち上げるとして。日々の生活の糧は、コンビニかスーパーかデパートで仕事を稼ぐ。

「どうしたん?」

あ、考え事をしてて、無口になっていたみたいだ。そう告げると、楽多は笑った。

楽多の笑顔はとてもいい。

本気で楽しそうに笑っているのが分かる。

僕も笑い返す。

「透明な魔術って、いいよな。そういう魔術を考えた人がすげー」

楽多の言葉に、頷く。

「感謝しないとな」

Thank you very much.(どうもありがとうございます)って言うと、いいんだよな。

常に本人に言い続けなくても良いけどね。

基本神様や仏様に心の中で言うといいね。

でも、常に感謝しないでもいい。

仕事の最中や休んでるときかもしれないからね。

席に着くと、「おはよう」ってみんなが言ってきた。

「おはよう、今日もありがとうな」

みんなが嬉しそうに笑った。

この世界が好きだ。

幸せだし、楽しいし、素晴らしいと思う。

この世界に産まれてきて良かったと思う。

 

さあ、授業が始まる。

「今日は透明な魔術の方法を教えます」

先生が黒板にこう書いた。

1、「ありがとうございます。」と感謝の言葉を言ってください。

2、「瞑想をします。ゆっくり深く息を吐いてから、このときお腹をへこませて、鼻から息を吸って、このときお腹をふくらませて、自分の呼吸に意識を向けて、雑念が入っても、頭の中を空っぽにして、呼吸にだけ意識を向けるようにして下さい。」

3、「できるだけポジティブでいい言葉を発してください。」

4、「できるだけポジティブでいい言葉を聴いたり見たりしてください。」

5、「できるだけ綺麗で美しく優しい絵や写真や動画を見たり描いたり作ったりしてください。」

6、「できるだけ幸せな話を読んだり書いたりしてください。」

7、「『皆様の幸せを願います。』と、言ったり、書いたりして、あと、ネットに流して下さい。」

8、「個人的な望みは、たくさんの人が見たり聞いたりする場所に書かない、言わない、ようにして下さい。」

9、心の奥から「皆様の幸せ」を願ってください。

10、笑顔になってください。

etc……。

 

 

第2章 とうめいなまじゅつ

 

透明な魔術の授業時間を終えた。

だいぶ透明な魔術の仕方が分かってきた。

呼吸が大事だと言う。

息を吐いたあと鼻から息を吸う。

10秒くらい息を吐いて、5秒くらい息を鼻から吸って、5秒くらい止めてから、また繰り返し。

数回呼吸をして、「ありがとうございます。」と心の中で言ってみた。

透明な魔術の呪文。

「この世界を平和に、皆様を幸せに、明るく元気で楽しい喜びあふれる素晴らしい1日を誰もが皆過ごせますように」

なんか、透明な魔術が使えるようになってきたみたいだ。

家に帰る途中は寄り道をして散歩をする。

散歩はいい気晴らしになるし、運動不足も解消できる。

途中の道で花が咲いていた。

白くて菖蒲にも似ている、毅然とした花、シャガだ。

花屋で花を買っていこう。

少し歩くと、小さな花屋さんがあって、そこで1本花を買う。

黄色いチューリップ。

黄色が結構好きだ。

黄色は金運にもいいらしいし、ゲームがうまく作れるだろう。

まずはゲーム作りコンテストに出て一位を目指すぞ。

そのためには完成させなくちゃ。

コンテストが、冬だから、それまで毎日頑張るぞ。

家に帰って、ウェイトトレーニングをする。

運動しとくと、健康でいられるからだ。

健康には食事、運動、睡眠が大事なのだ。

頭が良くなるように食事では魚を多く出してもらっている。

さて、ゲーム作り再開だ。

時間が過ぎるのが早い。

目を休めるために、コンピューターを見続けないように、10分に1回視線を遠くに向けるようにしている。

考え事をするときなど、椅子から何回か立ち上がって動き回るようにしている。

2時間集中して、簡単なシナリオコースが1つ完成した。

    そこで夕飯の時間になった。

うちでの料理は希望(のぞみ)お母さんが作るけれど、片付けは子供達がやる。

今日の料理はトマトとモッツァレラチーズとツナのスパゲッティ。

トマトも消化が早いから他の消化の遅いものと一緒に食べるにはオリーブオイルをかけて食べるといい。(フランク・ラポルト=アダムスキーさんの「腸がすべて」より)

「いただきます」

オリーブオイルをかけて。

食べる前に「いただきます」と食べ物に感謝の意を告げると、食欲が増す。

僕にとっては欠かせないこと。

「美味しい!」

僕が舌鼓を打つ。

「食べたいって言ってたの、覚えててくれたのね。作ってくれてありがとう」

花華(はなか)お姉ちゃんが希望(のぞみ)お母さんに礼を言う。

「ほんに、美味しいねぇ」

舞喜(まいき)おばあちゃんが笑いながら言った。

聖次(せいじ)お父さんが帰ってきた。

「ただいま」

「お帰りなさ~い」

皆の声がハモる。

「フルーツ買ってきたよ」

「ありがとう、あなた。明日作りますね」

聖次お父さんの言葉に希望(のぞみ)お母さんが礼を言う。

「あなたの分も夕飯作るから待っててくださいね」

「ああ」

希望(のぞみ)お母さんはパタパタとキッチンに向かった。

聖次お父さんは服を着替えに自分の部屋に向かった。

僕はスパゲッティをよく噛んで食べる。

その方がお腹の吸収にいいらしいからだ。

「ごちそうさまでした~」

食べた後そう言って、ローズマリーティーを入れた。

ハーブのローズマリーは頭をよくするらしいのだ。

夕食後は、映画を観る。

ゲームのシナリオをレベル高くするように、参考に映画を観るのだ。

気に入った作品を何度も見るのが効果的とか。

僕が見てるのは「がんばれサッカー」という、サッカー選手のお話だ。

毎日練習に励み、どんどん上手くなっていく姿が、見てて気持ちいい。

僕も頑張ればゲームコンテストで優勝できるって期待が湧くんだ。

よし、頑張るぞ。

分岐が多すぎて、困ったな、これ。

分岐を減らすしかないか。

どうやって減らそう。

椅子から立ち上がってぐるぐる回る。

うーん、簡単じゃないなぁ。

 

 

第3章 こんくーる

 

そんなこんなで、コンクール当日。

朝まで徹夜したけれど、できなかった。

来年のコンクールまでには間に合わせなくちゃ。

何が行けないのかは分かっている。

分岐を増やしすぎて収拾がつかなくなってしまったんだ。

どの分岐に行ってもハッピーエンドにするには、分岐を減らさなくては。

でも、書いたどの方向の分岐も、消したくなくて。

悩んでいる途中で、学校を卒業することになった。

透明な魔術を、学び終わったからだ。

他にも習った魔術はあるけれど、僕が苦心したのは透明な魔術だった。

楽多はマスターしたらしく、作曲の中に魔術を練り込んで作っている。

楽多の曲を聴くと勇気が湧いてきて、癒されて、元気になる。

僕も魔術をマスターしたかったんだけど。

ネット友達にイラストを依頼して、OKをもらえた。

ゲーム養成講座に通ったほうがいいかもな。

今僕が必要なのはゲームを完成させる方法だから。

そこで、ゲームシナリオ作成講座というオンライン講座を習うことにした。

そこで親しくなったのは、道夫(みちお)。

彼は一本のシナリオで人を感動させる作品を作りたいらしい。

道夫とは気が合って、毎日のようにゲーム作りの進み具合を話したりゲームの方向性を話したり、話し合った。

そこで、僕の作品の成功していない部分に気付いて、修正を施したら、いい感じにできてきた。

ライバルがいるって、いいな。

コンクールの優勝は僕がもらうけどね。

そして、再びコンクールの季節がやってきた。

今度は完成させたので、参加できる。

それだけで、うまくいくとは、いかなかった。

他の出演者のゲームをやってみて、勝てる気がしなくなってきた。

どの作品も素敵で、かっこいい。

審査結果は1ヶ月後。

1ヶ月の間、身悶えしながら待って、審査結果の発表会場に向かった。

「どの作品も素晴らしくて、良かったのですけれど、透明な魔術を組み込んだ音楽を使っている、森野中水樹さんの作品が素敵でした。どのエピソードも良く練り込まれていて、ラストまで、駆け抜けてくれたと思います」

結果は、5位。

ちくしょー。

でも、認めてもらえたことに嬉しさを感じる。

道夫は3位で。

道夫と、コンテスト会場からの帰り道に、ファミレスに寄った。

「道夫、頑張ったな」

「うん、水樹もいいところまで行ったよ」

「1位のゲーム、作成者が150人位なんだよ。それだけ気合が入っていたんだな」

「実際やってみて、動画とか、ゲームシステムも細かいし、よくできてた」

「チームでやっている人には勝てないよな」

「そんな中、3位と5位は頑張ったと思うよ」

お互い褒め合って、少しだけど元気が出た。

「来年のコンテストには?」

道夫が聞いてきた。

「間に合うか分からないけど、頑張ってみようかな」

「それなら」

道夫は、少し迷っているような声で、「一緒にやらないか?」と言ってきた。

「いいね!」

僕は思わず、大声をだしてしまい、周りを見渡した。

ざわめきのあるファミリーレストランで、このくらいの声なら、気にされないのか、と思いながら、道夫に頷いた。

「一緒に作ろう」

コンテストまであと365日。

スケジュールと、シナリオの方向性を決めたんだ。

そして、仲間とゲームを作るのが楽しいことを知った。

お互いの意見を入れて、方向性を決めて、シナリオを書いていくことの楽しさを知った。

僕の作品はどんどんうまく良い方向に進んでいった。

どのコースもハッピーエンドで。

途中も楽しい嬉しい幸せなことが多くて。

そんな魔法のような話をゲームとして作れたのは、良かった。

そして、コンクールで、見事1位を取れたのだ。

「やったぁ!」

嬉しくて、道夫と楽多とイラストを描いてくれたネット友達とでオンライン飲み会をやった。

とても楽しくて、幸せな時間だった。

それからゲームを発売した。

ゲームは瞬く間に売れ、僕たちはお金に困らない程度のお金を得ることができた。

まだまだ、ゲームを作るぞと言う意欲が胸に沸き起こる。

僕たちのゲーム作りはさらに広がって、また仲間ができた。

仲間が増えるたび、いい作品ができて、楽しくて、幸せで。

乾杯の音が毎日響いた。

楽しくて幸せな毎日は続く。

ついでにイラストを描いてくれたネット友達と、恋人になった。

そして今では結婚した。

また次の作品を手がけている。

それもまた面白いように売れて、幸せいっぱいだ。

子供もできたし、夫婦仲も良好で、子供もいい子に育っている。

これからもいいことが続くに違いない。

そんな予感がしたんだ。

透明な魔術はいつの間にかマスターしていた。

 

透明な魔術、知ってるかい?

誰もが使えるようになる。

透明な魔術。

もしかしたらあなたも使えるようになるかもしれません。

そのために必要なのは、感謝の言葉やポジティブな言葉やいい言葉。

あなたも使ってみませんか?

自分だけでなく、みんなを幸せに。

できるはずです。

笑顔になってみんなが楽しく幸せになる魔術を、使ってみましょう。

fin