あなたの親友になりたい(小説全部)

 

「はーい、カット~」

私は映画研究会に入っていた。

その仲間で、今でも映画を作っている。

同じ映画研究会のメンバー、前田明里(あかり)と友達、いや親友になりたいのだ。

なぜかというと。

前田さんは、映画研究会で脚本を書いているけれど、そのストーリーが最高なのだ。

胸を鷲掴みって感じで、感動するのだ。

だから、親友になりたい。

こんな素敵な作品を作る人と親友になれたら、最高だからだ。

今度勇気を出して話しかけてみよう。

「橋本さん、カメラ上手く撮れた?」

「あ、はい」

私の名前は橋本未来(みらい)。

自分でもこの名前が気に入っている。

私の映画研究会での役割はカメラ撮り。

ところどころ澄んだ青い空や優しい木漏れ日や綺麗(きれい)な花を撮って入れるのを覚えておくと、いい。

あとは編集担当の池波紫苑(いけなみしおん)に任せておけば、かっこよく編集してくれる。

前田さんの脚本は、暖かい日差しのようでそして面白い。

出てくる人皆優しいし明るい。

一癖二癖あるけれど、それが個性的でいい。

「ま、前、田……さん」

勇気を出して前田さんに声をかけた。

「何?」

前田さんは、不思議そうに見返す。

「いい天気ですね」

もっといい言葉があるはずなのに、こんなことを。

「うん、しばらくいい天気らしいよ」

「そうなんですか」

「うん」

でも、こんな会話すらできたことが嬉しい。

「わたし、急いでいるからごめんね」

前田さんはそう言って、その場を去る。

あ、アドレス聞いておけば良かった。

前田さんと親しくなるには、アドレスの交換くらいしとかないと。

そんなことを思いながら、家に帰った。

 

「ここのシーン、どういう角度で撮ったらいいですか?」

前田さんに尋ねる。

「ここはね、こんな感じ」

前田さんはささっとコンテを描いて見せてくれた。

「あ、いい感じかも」

木漏れ日を浴びている役者を綺麗(きれい)に撮る。

役者は5人。

5人だけで話が回るように脚本は練られている。

いい作品だと思う。

どこか面白さがあって。

優しい温かな話。

「橋本さん、こっちからも撮って」

前田さんが指示を飛ばす通りに動く。

こんな温かい話、どうやって思いつくんだろう。

今日の撮影が終わって、前田さんに話しかけた。

「アドレス教えてください」

「うん。いいよ」

前田さんから許可を得て、アドレスを交換する。

スマートウォッチを重ね合わす。

これで、話ができる。

「じゃあ、私、行くところあるから」

前田さんは、その場から去った。

家に帰って、前田さんにメッセージを送ろうとする。

でも、何を書こう。

少し時間がかかったけれど、前田さんにメッセージを送った。

返事を待って、待って、待っているけれど、来ない。

きっと手が空かないんだな。

そう思って、心を慰める。

翌日の朝、メッセージが届いていたので、小躍りした。

たった一行だったけれど、それでも嬉しい。

急いで返信を送る。

返信は返ってこなかった。

 

橋本さんから、メッセージが届いているのに気がついたのは、家の仕事が全部終わって、子犬の信実(のぶみ)を散歩に連れて返ってきた後だった。

わたしの家は親が2人とも帰りが遅いので、家のことはわたしが全部やる。

幼い妹がいるから、幼稚園に迎えに行って、買い物をして、信実の世話。

家のことをやるのは好きなのだ。

犬の世話も好き。

必要なことが全て終わってスマートウォッチを見ると、メッセージが届いてた。

ああ、橋本さんからだ。

橋本さんと、友達になりたいな。

どうせなら親友に。

友達、多い方が楽しいし。

親友になって、恋バナとかするのもいいなぁ。

メッセージに返信を、と考えて、何を書けばいいのか考えた。

考えて考えて考えて。

お風呂の間も考える。

やっと返信をする。

もう、寝てる時間かもしれない。

わたしも寝なきゃ。

夜10時から深夜2時までは睡眠のゴールデンタイム。

この時間に寝てると身体にいい。

寝る前は脚本を考える。

シナリオライターになるのが夢だから、ちょっとした時間でも脚本を考えるようにしている。

次の作品は、もっと見せ場を作りたい。

印象的なセリフも考えて。

映画だけでなくドラマの脚本も作りたい。

ドラマより映画の方が簡単だと私は思う。

でも、ドラマの脚本を書くのも楽しい。

1話の間にコマーシャルを入れる時間もとって、その中でも小さな起承転結、全話の中でも起承転結を作る。

簡単ではない。

けれどそれが面白い。

上手くいった時には幸せを感じる。

わたしの朝は早い。

顔を洗って。髪をとかして。着替えをして。

野菜を入れたスムージーを作って、食べる。

片付けをする。

洗濯もして、今日はシーツを洗おう。

掃除を家の前だけとりあえずやる。

家の中は帰ってきてからだ。

映画研究会の集まりに向かう。

映画研究会の集まりに行って嬉しいのは、役者の、信海豊(しんかいゆたか)に会えることだ。

信海君とは恋人になろうと思っている。

とは言ってもまだ友達にもなれていないけれど。

今度、信海君に話しかけてみよう。

 

「信海豊さん、おはようございます」

うちのAIロボット、ビリーブに話しかけられた。

「おはよう、ビリーブ」

名付けは母さんだ。

顔を洗って、ご飯を食べに行く。

オレが好きなのは、母さんの作った料理全般。

今日はご飯に納豆と味噌汁。

納豆はよく噛むといいらしいので、よく噛む。

といっても、ご飯は全部よく噛んで食べたほうが消化にいいので、全部よく噛んで食べる。

家から出ると、ハナミズキが咲いていた。

綺麗(きれい)な花で、オレは好きだ。

中がピンクで、花びらのところが白にグラデーションでなっているのが、なんとも言えない。

今日は日曜なので、映画研究会の集まりがある。

土曜と日曜が集まりの日なのだ。

オレが映画研究会の集まりに行くのは、前田さんに会えるからだ。

といってもまだ友達にもなれていない。

まずは友達にならなくては。

今日こそ話しかけるぞ。

前田さんの書く脚本は優しさであふれている。

それが好きだ。

「楽しいな」

そんなことを言って穏やかに笑うシーン。

「すごく、幸せだわ、私たち」

役者の日向(ひなた)みどりがセリフを言う。

そこで撮影が終わった。

「すごくいいのができたわ。ありがとう。あとは編集をお願い」

前田さんが言った。

池波が「よし任されたっす」と、言う。

池波とは友達だけど、親友になりたいと思っている。

もっと、いろんな話ができるといいよなぁ。

いつも帰る時間より早く終わったので、前田さんに話しかけようとしたら、橋本さんが前田さんに話しかけていた。

先越されたな。

まぁ、中に入って話に混ざればいいか。

「何話してるのかな?」

「前田さんのシナリオの感想を」

橋本さんが答えた。

「いつもいいけど、今回のシナリオは、練りに練ってあるって感じで、良かったよ」

オレが言うと、前田さんは可愛らしく笑った。

「これから、ファミレスかなんかで話をしない?」

オレの言葉に橋本さんが頷く。

前田さんは、少し迷った顔をしてから、「ごめんなさい、今日は、早く終わったから、次の脚本を書きたくて」と言った。

「あ、いいよ。それなら」

「じゃあ、私も帰るわ」

橋本さんも抜けて、オレは前田さんにアドレスを聞いて、その場は終わった。

家に帰って夜、前田さんにメッセージを送った。

「脚本の進み具合はどうですか?」

前田さんから返信が届いた。

「もう少し時間がかかりますけど、いいペースで書けています」

オレは翌日、役者を目指す人のワークショップに通った。

金曜はオーディションやエキストラの仕事を探す日に当てている。

仕事は火曜から木曜まで。

オーディションやエキストラの仕事と重なった日は休ませてもらっている。

家に帰ってからは、サイスに演技した動画をアップ。

頑張っていると自分でも思う。

お金は、親と住んでいるから食費とかもかからないし、今入ってくるお金はほとんど貯金にあててある。

「イエーイ。池波っす。信海さん、オンライン飲み会しないっすか?」

池波はオレより1つ下だから、丁寧語で話してくる。

「タメ語でいいし。さん付けもいらないよ」

「そうっすか? あ、丁寧語になっているっすね。慣れっすね」

サイスで池波と話しまくった。

これ、親友確定じゃね?

「お、オレたち、親友だよな?」

池波に思わず問いかけると、池波はいつもの明るい表情で、答えた。

「親友すっよ」

やったぁ!

 

イエーイ、池波っす。

映画や動画の編集をしてるっす。

信海君と親友なんっす。

好きな人がいるっす。

カメラを撮ってる橋本さんが好きっす。

この前アドレスを交換してから、サイスで話すことが多くなって嬉しいっす。

幸せって、こんな小さなことで、感じるものなんすね。

今日は一日中動画編集してたっす。

サイスにあげる動画を頼まれて、有料で編集しているっす。

いい稼ぎになるっす。

動画編集は得意だし、好きだから、楽しいっす。

将来、橋本さんが撮った動画を編集して発信できたらいいっすね。

橋本さんにアプローチのメッセージ送るかな。

ちょっと勇気を出して。

文面とかきちんと考えたっす。

返信が来た!

イエーイ。

嬉しいから鼻歌をうたう。

橋本さんを誘ってカフェでお茶でも飲みながら話そう。

返信が来た。

イエーイ!

そして、今ここカフェにいるわけなのだ。

カフェは綺麗(きれい)で、和やかな雰囲気。

バックミュージックとして、80年代の明るめの曲が流れているっす。

歌詞にビリーブとかハッピーとか言っているから、良さげな曲だ。

思わず聴き惚れる歌声。

「カメラで橋本さんが撮ったものを編集して動画配信したいんっす」

砂糖を入れたコーヒーを飲みながら、そう言うと、橋本さんは、コップに入ったストローをかき混ぜながら「私でいいのかな?」そう尋ねてきたっす。

「いいから言ってんすよ♪」

橋本さんは「じゃあ」と、言って、握手を求めてきたっす。

橋本さんの手細い。

華奢で、少し冷たいっす。

「もう、手」

ハッとして手を離したっす。

ここはイエーイと喜ぶところだけど、嬉しすぎで顔が熱いっす。

「私ね、前田さんと親友になりたいんだ」

橋本さんは、少し照れたような顔で言ったっす。

「前田さん? いつも忙しそうっすよね」

「うん、だから、チャンスがなかなか」

そんなことを話して、別れたっす。

うん、これもう告白していい感じっすよね。

動画が完成して、土曜はお披露目会になった。

 

「すっごい、良かったです。わたしの思い通りに、編集してくれた池波君に拍手を」

みんなが拍手する。

「すごくいいシナリオ作ってくれた前田さんにも拍手~」

信海君が言う。

「役者のみんなもよく演じてくれて、ありがとう」

前田さんが嬉しそうに笑った。

「撮ってくれたカメラ担当のみんなもありがとう」

私はこの映画を完成させられたことが嬉しかった。

「この映画を、公募に出そうと思ってるの」

みんなが頷く。

「わたしは脚本で食べていきたい。できたら、みんなとも一緒にやっていきたい」

「オレも、役者で生きていくって決めてるんだ」

信海君が声をあげた。

「私もカメラマンになりたい。前田さんの脚本で」

「動画編集は任してくれっす」

私のあと、池波君が叫ぶように大きな声を出した。

みんなが笑う。

公募、通るといいけど。

私は前田さんに話しかけた。

「次の脚本は、どれくらいできているんですか?」

「完成したわ。印刷したの渡そうと思ってたの」

前田さんは鞄から脚本を出して、みんなに渡しに行く。

脚本を受け取って、その出来の凄さに感動した。

「すごい、素敵」

「本当に?」

前田さんはちょっと恥ずかしそうに顔を下に向けた。

「前田さん、親友になってください!」

思い切って言ってみると、前田さんは顔をくしゃっとさせて、「ありがとう。私も親友になれたらいいと思ってたの」と笑った。

嬉しさで飛び跳ねたくなった。

頭の中で誰かと乾杯をしている。

幸福で、顔がにやける。

その時、信海君がやってきて、「前田さん、恋人になってください」と言ってきた。

前田さんの脚本の凄さに告白したくなったのね。

私みたいに。

「わたしでよかったら」

私はうずうずしてきた。

池波君のそばに寄って、「あのね、いつの間にか好きになっちゃったんだ」と言うと、池波君は顔を真っ赤にして、「イエーイ」と叫んだ。

それから告白大会みたいになって。

何人かペアになった。

池波君も私を好きだったとは。

嬉しくて、幸せで。

それから次の脚本を読み込んで、日曜日から新しいこの脚本を撮っていく。

公募は通って、賞金100万円をみんなで分けた。

次なる公募に向けて頑張っていく。

それが楽しくて。

嬉しくて。

喜びあふれてきて。

毎日が楽しい。

賞金の高いところをさらに応募して。

映画は、映画館でやってもらえるようになり。

サイスの映画を見るページでも取り扱ってもらえるようになった。

また、前田さんとはさらに仲良くなり、私も犬の散歩に付き合うようになった。

池波君とは同棲を始めた。

気が合って、毎日動画を撮っては編集してもらい、サイスにアップ。

お金がだいぶ入るようになり、これで生活できるって感じになった。

前田さんの名前は、知れ渡り、信海君と結婚すると聞いた。

結婚式は楽しくて、喜びあふれる式となった。

私と池波君の結婚式もそろそろ執り行う。

毎日がハッピーだ。

Fin

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