言いたくて

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声が出なかった。

一階のトイレに立った私は、階段を降りてリビングの前を通るとき、ドアから漏れる声を聞いて、心が壊れそうだった。

小学校一年生の冬のことだった。パパとママのケンカ。聞いてはいけない、言葉。聞いてはいけなかった、パパの声。それでも耳にした言葉は消えなくて……自分の言葉すらも奪っていった。 

「毎日、働いて働いて、それで何になるって言うんだ? 全部悠香の入院費用になって消えていく。馬鹿げていると思わないか? どうせ長く生きられやしないさ。オレは、たかが子供のために自分の人生を無駄になんかしたくないんだ」 

「あなたは自分の子供が可愛いくないの?」 

「オマエだって、そう思っているんだろ?」

「悠香は、心臓が悪いのよ。私達が面倒見るのは義務だわ」   

「子供なら、親に迷惑かけないで欲しいね」 

「悠香に聞こえるわ、声を落としてよ」    

「聞こえたって構わないさ、それで大きな発作でも起こしてそのまま」

ママ。 

「ママ。泣かないで。ママ」 

パパが大きな荷物を持って家を出て行った日の夜、あのリビングの前で声を殺して泣いた日から、半年ほどたった休日の朝。

広いダイニングテーブルに肘を乗せ頭を抱えこんで、ママは丸い背中で椅子に座り込んでいた。床に空になったビールの空き缶が転がっていて。

「あんたに何が分かるの? あの人はあんただけじゃなく、私も捨てたのよ!! あんたに何が分かるって言うのよ!」

「でも、ママ」 

「一人にしてちょうだい!」 

「ママ」    

「一人にして!」 

「私はママが好き。パパもきっと」 

「出ていけと言っているのが分からないの!?」 

「マ……」

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