夜翔(やしょう)の住む世界で(by.来樹杏果)

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※この作品は過去作品(当時のタイトルと変えました)なので、一人称と三人称が混ざり合っていて変かもしれませんし、文章も下手ですが、当時の勢いがある作品で気に入っているためこの状態で投稿します。


銀光が窓から射しこんでいる。その穏やかで柔らかな月光は、窓辺に置かれてある霞雪花(かすみせつばな)を照らしている。そして室内中を静かな哀しみが満ちていた。

奥のベッドを囲んだ数名は、一言も言葉を漏らさずに賢魔士(けんまし)イクサースを見つめている。この国において高い地位を約束された賢魔士は、ゆっくりと瞳を開け、そして胸元で握っていたこぶしを開いた。結界を解いたのだ。

「城街を抜けました。もう平気です。皇(こう)にお伝えください」

侍女の一人が泣きはらした顔をそのままに、頷き扉を開けた。

(後戻りは、できない)

その場にいる誰もが思った。

不安がないわけではない。けれど……。

カチャ。

扉の開く音とともに青ざめた顔をして入ってきた皇王に向かって、薬師(くすし)は小さくかぶりを振った。

第一章・・・緋色の光

争乱の最中、彼は生まれた。

(いたい。いたいよぅ。なんでこんなめにあうんだよぅ)

人と人の間に生まれた異形。

(ばけものってなに? だれかたすけてよぅ)

追いかけられ、弓射られ、剣斬り付けられる。

(いやだよぅ。もう、いやだあ)

逃げることに疲れた頃、彼は思う。

(こんなせかいは、いらない。ぼくをきずつけるものなんて、なんにも、いらない)

(いらない――)

そして、精霊の守護があったにも関わらず、二つの王国が一瞬のうちに消滅した。

それは、伝説ともいえるほど遥か昔の話である――。

とてとて、と小さな音を立てながら森の近くを歩いているのは、五つか六つの幼い少女だ。

「やしょおが現れたら、これを投げる」

小さな手の中に、一つの宝石。

少女は、夜翔(やしょう)という存在が実際のところどんな存在なのか知らなかった。けれども、孤児院のお姉さんたちが話をするときの表情で、少女は、夜翔がいかに恐い存在なのか分かった。

「夜翔はね、綺麗な物が好きだから、もし夜翔が現れたら、それを投げて逃げるのよ」

出かけるときに必ず一人一個持たされる、綺麗な宝石。今少女が手にしているのは、斗雨玉(とうぎょく)と呼ばれる宝石の一つだ。鉱山の多いアクラミアム帝国では、夜翔対策のために比較的簡単に見つかる斗雨玉を、無料で国民全員に配布している。

「投げちゃうなんて、もったいないなぁ」

(こぉんなに、きれいなのに)

その透明がかった青は、深い海の底の色に似ている。少女が宝石ごしに空を見ると、普段より曇った空が、綺麗な青空に早がわりした。

少女の足元では、先月蒔いた霞雪花が芽を出している。

孤児院では、毎日孤児院の前の通りに花の種を植えるのが習慣になっていた。それも夜翔対策の一つである。だがそれだけではなく、この花は庶民に深く愛されている花だ。この霞雪花は、その名のとおり冬に咲く白い小さな花で、雑草のようにどこにでも咲く強い花だ。五枚の花びらの先に薄いピンクのハート型の模様が可愛らしく、かすかに香る甘い香りは身体の調子を整える効果がある。

少女は道を外れて、森の中に入った。

紅葉の季節は終わり、果実が赤茶色の葉の上に落ちている。少女はその果実を籠の中に入れる。歩くときシャクシャクという音がするのが好きで、少女はわざと足を大きく上げて、枯葉の上を歩いた。その音にびっくりして、栗曖(りあ)という真っ白い毛をした動物が、逃げた。

「りあだ!!」

絵本の中でしか見たことのない愛らしい動物を身近で見たことに夢中になって、少女は栗曖を追いかけた。次第に、風に似た静かな音が聞こえてきた。その音は水の流れる音であったが、少女はそれに気づかずに水音のする方へ近づいた。

「わあ……!」

土精と金精の守護を持ち、水精の守護を持たないアクラミアム帝国では、水辺に夜翔が集まりやすい。これは当たり前の事実だったが、少女はその事実を忘れていた。大きな水のかたまりを見たことがなかった少女は、特別注意もせずにその池に近寄った。

「きれーい」

顔を映してみる。嬉しそうに覗き込む、可愛らしい少女が、目に映った。

(パパやママは、どんな髪の色をしていたのかな?)

(どんな瞳の色をしていたのかな?)

少女は、自分の髪を軽くつまんだ。

アクラミアム帝国に住む人々は、皆、金色の髪と若草色の瞳をしている。

それなのに、少女の髪は、金色とは程遠い……濁った茶色。瞳は、暗闇の中で見れば、それこそ黒とも見まがうほどの濃い緑色をしている。

他の子と違う色を持つ。これは、少女を人一倍寂しくさせる要素の一つだった。孤児院の子供たちは、気に入らない子がいたとしても意地悪をするような子供たちではない。けれど……。

「ねぇ、何でセフィだけ髪の色や瞳の色が違うの?」

何気なく聞かれる言葉が、少女――セフィリア――の心を他の子から遠ざけてしまう。

「セフィはね、他の国の子なんだよ。きっとね」

いつも孤児院のお姉さんが言う言葉。

(他の国って、どんな国なのかなぁ?)

(パパやママはそこにいるのかな? パパやママは何をしているのかな?)

(どうして、パパやママはセフィを一人だけここに置いていっちゃったの?)

(どうして……?)

ポタン。

涙が落ちた。

水が、揺れる。

そのとき、水が、かすかに濁った。哀しみに濁った水には、影ができる。そして影は、更なる影を生む。

影の中に棲まうモノ……それを、人は恐れる。

その名は、夜翔!!

夜の色を纏い、空翔ける星を持つモノ……夜翔が、蠢く!

「あ、ああっ!!」

一瞬のうちに、池の中は黒き異形に埋め尽くされてしまっていた!

目……なのだろうか? 赤や青の不気味な光が幾数も動いている。

「や!」

斗雨玉の存在を忘れ、セフィリアはあとずさる。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

パアン。

何かが割れた。

そして……。

――ミイツケタ!!――

暗闇の中で、笑う存在。

――オレノモノダ。――

数え切れないほどの闇が、一斉に声を上げた。

――ジャマヲスルナァァァァァァ!――

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