後三回(小説)(2016/02/01作成作品)(by.来樹杏果)

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「好きなんすけど」
 私より五歳も年下の、安藤雅紀(まさき)が、怒ったように告げる。
「安藤君、何度も言っているけど、私は――別に好きな人がいるの」
「ゆるさん、それ誰なんすか? それ聞かない限り、諦められないんですが」
 困る。
 ――なぜかって?
 それは、好きなのが安藤君だから。
「だから、安藤君の知らない人だって――」
 突然頭に響く、悲鳴。
「ごめん、用事だから」
 私は体を翻した。
 誰もいないところで、変身する。
 髪の毛をポニーテールにして仮面をつけて。一目見ただけでは私だとは分からないだろう。
 そして――悲鳴の現場へ。
 女の子が、たくさんの男の人に囲まれている。
「た、助けて」
 女の子が小さく呟く。
 私は――男達の頭を蹴り倒した。
「こっちへ」
 女の子の手を引いて――走る。
「いってー」
 男達が立ち上がって、追いかけてくる。
 結構、足速いな。
 女の子が転んだ。
 うん、仕方ないよね。
 飛んじゃえ。
 ――空を飛ぶのは、大好きだ。
 この力を、得て何よりも嬉しいのは、空を飛べること。
「うわ、飛んでるー!」
 女の子が私の腕の中ではしゃぐ。
「な、なんだ! あれ!」
 男達が叫ぶ。
「家、どこ?」
 女の子の家を聞いて、女の子の家の前に女の子を降ろした。
「ありがとう」
 女の子が手を差し出したから、握手して。
 ――六年前から、私は、神様の手助けをしている。
 本当なら、六年前死ぬはずだった。
 家が火事になって。
 両親は私が助けた。火の中から、飛び出して。
 だから、安藤君に、好きって言えない。
「ぷい、ユルちゃんお仕事お疲れ様」
 羽を羽ばたかせて黒い猫が、私に話しかけてきた。
「りんりん」
「んじゃ、お仕事日記つけるね」
「はーい」
 りんりんは、私の付き猫。
「後、三回で終わりだね」
 りんりんの言葉に、びくっとなる。
 後三回、前から言われていた。
 六年前から、千人を助けたらこのお仕事は終わると言われてきた。
 つまり、死ぬって事だよね?
 ――だから、安藤君に好きって言えないんだ……。
 残り三回はあっという間にやってきた。
 一回目は、川に落ちた子を助けて。
 二回目は、犬に追いかけられた子を助けて。
 そして、最後――。
 駅前で通行人を切りまくる――男が現れた。
 変身した私は、男に向かってドロップキック。
 次に男が切りつけようとしていたのは!
「安ど――!」
 安藤だった。
「え?」
 安藤が、驚いた顔をする。
「何で、おれの――名前」
「それは、後!」
 男に向き合う。
 男が血の付いたナイフを舐める。
 男の手元を、狙って――キック!
 安藤の視線を感じる。
 男が私に向かって――きた!
 男のナイフが、頬を掠めた。
「あ!」
 安藤が息を呑む。
 仮面が――取れた。
 でも、そんなことに構っているわけには行かない。
 男の腹に一発蹴りこむ。
「ゆるさ――」
 男が倒れこんで、私は安藤君に向き直った。
「バイバイ、安藤君」
 私がその場を去ろうとしたとき、りんりんが現れた。
「ユルちゃん、お仕事終わったよぉ。これからは、普通の人として暮らしてね」
「え?」
 空を飛ぼうとした私の足は、地面に釘止められたまま。
「ゆるさん、今の、空飛ぶ黒猫何すか?」
「え、りんりん見えたの?」
「りんりんって言うんすか?」
 安藤君は、私の目を覗き込んで。
「あれが、ゆるさんの告白に応じない訳?」
「え――っと」
「おれ、ゆるさんがおれのこと好きなことくらい、分かってたんです」
 誰かが呼んだのだろう。
 サイレンの音がする。
 私達を遠巻きから眺め見る人々。
 ああ、もう――いいや!
「そうだよ。私、安藤君が――好き」
 安藤君は、私の体をぐいっと引き寄せた。
 体を強く抱きしめられる。
「説明して」
 私は、六年前の火事から、話し始めた。
 全てを話し終えると、安藤君が、はーっと長い息をついた。
「一人で、大変でしたね。でも、一言言って欲しかったな」
 安藤君は、そう囁くと――笑ったんだ。
 安藤君に嘘つかないですむのは、嬉しい――な。
 もう飛べなくなるのは、悲しいけど――ね。

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